【秦系】山中贈張正則評事

 

中唐・秦系

山中贈張正則評事

山中(さんちゅう)にて張正則(ちょうせいそく)評事(ひょうじ)に贈(おく)る

 

終年常避喧　師事五千言

流水閑過院　春風与閉門

山茶邀上客　桂実落前軒

莫強教余起　微官不足論

 

終年常避喧

終年(しゅうねん)　常(つね)に喧(かまびす)しきを避(さ)け

師事五千言

師事(しじ)す　五千言(ごせんげん)（『老子』のこと）

流水閑過院

流水(りゅうすい)　閑(しず)かに院(いん)（中庭）を過(す)ぎ

春風与閉門

春風(しゅんぷう)　与(ため)に門(もん)を閉(と)ざす

山茶邀上客

山茶(つばき)　上客(じょうかく)を邀(むか)え

桂実落前軒

桂実(けいじつ)（モクセイの実）　前軒(ぜんけん)に落(お)つ

莫強教余起

強(し)いて余(われ)をして起(た)たしむること莫(なか)かれ

微官不足論

微官(びかん)（下級官吏）　論(ろん)ずるに足(た)らず

 

山中（山の中。隠棲の象徴）

張正則（人名。詳細不詳）

評事（官職名）

終年（生涯）

常避喧（世の喧騒を嫌う）

師事（先生として仕える）

五千言（『老子』のこと）

流水（流れる川）

過院（中庭を通過する）

山茶（ツバキ）

上客（上等な客）

桂実（モクセイの実）

前軒（前方の軒先）

莫強（無理に～させるな）

教（～させる。使役）

微官（下級官吏。謙遜の意）

不足論（論ずるまでもない）

 

※『老子』は五千余言あることから「五千言」といわれる。

 

【訓読】山中にて張正則評事に贈る

終年　常に喧しきを避け

師事す　五千言

流水　閑かに院を過ぎ

春風　与に門を閉ざす

山茶　上客を邀え

桂実　前軒に落つ

強いて余をして起たしむること莫かれ

微官　論ずるに足らず

 

【和訳】山中にて、張正則評事に贈る

生涯世の騒がしさを避けて暮らし、

『老子』に師事して、生きる指針とした。

流れる小川が中庭を通り過ぎ、

春風が門を閉ざして行った。

ツバキは上等のお客を迎え、

モクセイの実が前方の軒先に落ちる。

私を出世に急かせないで頂きたい、

ましてや下っ端役人であればなおさらだ。

 

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漢詩をよむ　2022/10-2023/03