明・文徴明
夏日睡起
夏日、睡りより起く
緑陰如水夏堂涼,翠簟含風午夢長。
老去自於閑有得,困来時与客相忘。
松窓試筆端溪滑,石鼎烹雲顧渚香。
一鳥不鳴心境寂,此身真不愧羲皇。
緑陰如水 夏堂涼
緑陰 水の如く 夏堂涼し
翠簟含風 午夢長
翠簟(竹のむしろ) 風を含んで 午夢長し
老去 自於閑有得
老い去り 自ずから閑に於いて得る有り
困来 時与客相忘
困じ来たりて 時に客と相忘る
松窓 試筆端溪滑
松窓 筆を試みれば 端溪(端渓産の硯)滑らかに
石鼎 烹雲顧渚香
石鼎 雲を烹れば 顧渚(顧渚山の茶)香し
一鳥不鳴 心境寂
一鳥 鳴かず 心境寂たり
此身 真不愧羲皇
此の身 真に羲皇(古代皇帝・伏羲)に愧じず
翠簟(みどりの敷物。「簟」は竹製のむしろ)
老去(年をとって)
困来(疲れて眠くなる)
端溪(広東省、端渓産の硯)
石鼎(石のかなえ)
顧渚(浙江省、顧渚山の茶)
羲皇(中国古代の伝説中の皇帝、伏羲のこと。ここでは、その時代の民を指す)
【訓読】夏日、睡りより起く
緑陰 水の如く 夏堂涼し
翠簟 風を含んで 午夢長し
老い去り 自ずから閑に於いて得る有り
困じ来たりて 時に客と相忘る
松窓 筆を試みれば 端溪滑らかに
石鼎 雲を烹れば 顧渚香し
一鳥 鳴かず 心境寂たり
此の身 真に羲皇に愧じず
【和訳】夏の日、昼寝より目覚めて
木々がもたらす緑の影が、水のように屋敷に涼しさを運び、
竹製の敷物は風を入れて、昼寝にもってこいだ。
年を取り、のんびりとした生活にも得るものが多く、
眠気が起こってきて、お客のあるんも忘れてしまう。
松の木が見える窓のもとで筆を執れば、端渓の硯も滑らかであり、
石の鼎(かなえ)で水をわかせば、銘茶の顧渚が得も言われぬ香りを漂わせる。
一羽の鳥の鳴き声さえ聞こえず、心の中はきわめて静穏、
平和で安逸であった古代の民と何ら変わることがない。
※「寂」とは、さびしいことではない。
是非や名利にとらわれない虚心のこと。
中国文学では閑居や悠々自適の代名詞でもある。
NHKカルチャーラジオ
漢詩をよむ 2022. 4-9
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