盛唐・儲光羲
田家即事
桑柘悠悠 水蘸堤
桑柘悠悠として 水は堤を蘸し
晚風晴景 不妨犂
晚風 晴景 犂くを妨げず
高機猶織 臥蚕子
機を高くして猶お織る 臥蚕子
下坂飢逢 餉饁妻
坂を下れば飢えて逢う 餉饁の妻
杏色満林 羊酪熟
杏の色 林に満ち 羊酪熟し
麦浪浮壠 雉媒低
麦の浪 壠に浮き 雉媒低し
生時楽死 皆由命
生時 楽死 皆命に由り
事在皇天 志不迷
事は皇天に在りて 志は迷わず
田家(農家)
即事(事に触れて詩を作る)
桑柘(桑畑。「柘」はヤマグワ)
悠悠(のんびり、ゆったりしたさま)
蘸(ひたす)
堤(土手)
犂(すき。からすき、牛に引かせて土を耕す道具)
高機(織機、手機を上下させる)
臥蚕子(繭を吐くようになるカイコ)
餉饁(田畑で働く人に食物を運ぶ)
羊酪(ヒツジの乳製品)
壠(うね。くろ。畑の中の土を盛り上げた箇所)
雉媒(野生のキジを捕獲するための囮のキジ)
生時(生。生きているとき)
楽死(たのしんで死ぬ。死を憂えない。ここでは死をいう)
皇天(天)
農家を見て詠む
桑の葉はのんびりと風になびき、水は土手に打ち寄せる。
晴れた天気に夕方の風が吹き、牛に引かせる鋤(すき)の作業もはかどる。
蚕が吐く繭(まゆ)を使って、機(はた)を織る。
腹を空かせて坂を下れば、弁当を運ぶ妻に出会う。
杏の花が林に満ち、羊の乳製品ができあがり、
麦の波が畦(うね)に浮かんで、囮(おとり)の雉(きじ)が低く飛ぶ。
生と死はみな運命の定めによるもの、
天にあるのは自明で、志に迷いはない。
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