南宋・范成大
王浚明の新居の木犀を詠むに次韻す
月窟移来有貴名 一簾金碧照東栄
鼻端入妙睡魔醒 眼底会真詩句生
日気瓏璁無奈酔 露華凌乱不勝清
君家傾国何時見 淡掃蛾眉撚夕英
月窟移来 有貴名
月窟(月の岩穴)より移し来りて 貴名有り
一簾金碧 照東栄
一簾 金碧 東栄(東の軒)を照らす
鼻端入妙 睡魔醒
鼻端 妙入りて 睡魔醒め
眼底会真 詩句生
眼底 真に会いて 詩句生ず
日気瓏璁 無奈酔
日気(太陽の気) 瓏璁として 酔いを奈ともする無く
露華凌乱 不勝清
露華(モクセイの花) 凌乱として 清に勝えず
君家傾国 何時見
君が家の傾国(絶世の美女) 何れの時にか見えん
淡掃蛾眉 撚夕英
淡く蛾眉(美しい眉)を掃きて 夕英(夕方に咲く花)を撚る
次韻(詩を応酬する際に、韻字の順をそのまま使用する)
王浚明(人名。伝不詳)
木犀(モクセイ)
月窟(月中の岩穴。月を指す)
移来(移植する)
貴名(貴い名前)
金碧(黄金と碧玉。モクセイの花を喩える)
東栄(東の軒)
鼻端(鼻の先)
入妙(芳香が鼻に入る)
睡魔(眠気)
眼底(眼中)
日気(太陽の気)
瓏璁(朦朧とする。ぼんやりする)
無奈(どうすることもできない)
露華(モクセイの花。露の美しさを花に喩える)
凌乱(入り乱れる)
不勝清(多くの清らかさに耐えられない)
傾国(絶世の美女)
何時(いつ)
蛾眉(蛾の触覚のような眉、美しい眉。美人を指す)
撚(摘む)
夕英(夕方に咲く花)
【訓読】王浚明の新居の木犀を詠むに次韻す
月窟より移し来りて 貴名有り
一簾 金碧 東栄を照らす
鼻端 妙入りて 睡魔醒め
眼底 真に会いて 詩句生ず
日気 瓏璁として 酔いを奈ともする無く
露華 凌乱として 清に勝えず
君が家の傾国 何れの時にか見えん
淡く蛾眉を掃きて 夕英を撚る
【和訳】王浚明が新居の木犀を詠む作に次韻する
月から移植した花には貴い名前が与えられ、
簾越しに黄金や碧玉のごとき木犀の花が東の軒に映える。
鼻先からは妙なる花の芳香が入り込んで、睡魔を消し、
目にはまことの美が見え、すばらしい詩句が浮かぶ。
太陽の気がぼおっと霞んで、酔ったようになり、
露に濡れた木犀の花が乱れ咲いて、清らかさにたえぬ風情。
君の家の美人は、いつお目にかかれるのだろうか、
淡く美しい眉を引き、夕刻に花を摘む。
NHKカルチャーラジオ
漢詩をよむ 2022/10-2023/03
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