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Wednesday, 30 November 2022

【秦系】山中贈張正則評事

 

中唐・秦系

山中贈張正則評事

山中(さんちゅう)にて張正則(ちょうせいそく)評事(ひょうじ)(おく)

 

終年常避喧 師事五千言

流水閑過院 春風与閉門

山茶邀上客 桂実落前軒

莫強教余起 微官不足論

 

終年常避喧

終年(しゅうねん) (つね)(かまびす)しきを()

師事五千言

師事(しじ)す 五千言(ごせんげん)(『老子』のこと)

流水閑過院

流水(りゅうすい) (しず)かに(いん)(中庭)()

春風与閉門

春風(しゅんぷう) (ため)(もん)()ざす

山茶邀上客

山茶(つばき) 上客(じょうかく)(むか)

桂実落前軒

桂実(けいじつ)(モクセイの実) 前軒(ぜんけん)()

莫強教余起

()いて(われ)をして()たしむること(なか)かれ

微官不足論

微官(びかん)(下級官吏) (ろん)ずるに()らず

 

山中(山の中。隠棲の象徴)

張正則(人名。詳細不詳)

評事(官職名)

終年(生涯)

常避喧(世の喧騒を嫌う)

師事(先生として仕える)

五千言(『老子』のこと)

流水(流れる川)

過院(中庭を通過する)

山茶(ツバキ)

上客(上等な客)

桂実(モクセイの実)

前軒(前方の軒先)

莫強(無理に~させるな)

教(~させる。使役)

微官(下級官吏。謙遜の意)

不足論(論ずるまでもない)

 

※『老子』は五千余言あることから「五千言」といわれる。

 

【訓読】山中にて張正則評事に贈る

終年 常に喧しきを避け

師事す 五千言

流水 閑かに院を過ぎ

春風 与に門を閉ざす

山茶 上客を邀え

桂実 前軒に落つ

強いて余をして起たしむること莫かれ

微官 論ずるに足らず

 

【和訳】山中にて、張正則評事に贈る

生涯世の騒がしさを避けて暮らし、

『老子』に師事して、生きる指針とした。

流れる小川が中庭を通り過ぎ、

春風が門を閉ざして行った。

ツバキは上等のお客を迎え、

モクセイの実が前方の軒先に落ちる。

私を出世に急かせないで頂きたい、

ましてや下っ端役人であればなおさらだ。

 

NHKカルチャーラジオ

漢詩をよむ 2022/10-2023/03

 

 

Tuesday, 29 November 2022

【薛濤】酬郭簡州寄柑子

 

晩唐・薛濤

酬郭簡州寄柑子

(かく)簡州(かんしゅう)柑子(かんし)()せらるるに(むく)

 

霜規不譲金色 円質仍含御史香

何処同声情最異 臨川太守謝家郎

 

霜規不譲金色

霜規(そうき)(霜降るミカン) (ゆず)らず (おうごん)(いろ)

円質仍含御史香

円質(えんしつ) ()(ふく)む 御史(ぎょし)(かお)(高潔な香り)

何処同声情最異

(いず)れの(ところ)か (こえ)(おな)じくして(じょう)(もっと)(こと)なる

臨川太守謝家郎

臨川(りんせん)太守(たいしゅ) 謝家(しゃか)(ろう)(南宋の謝霊運)

 

酬(応酬の詩篇)

郭簡州(簡州刺史、郭という人)

寄柑子(ミカンを送る)

霜規(霜の降る頃のミカン。「規」は円)

不譲(~に劣らない)

円質(丸い形質。ミカン)

仍含(いまでも、やはり含んでいる)

御史香(高潔な香り)

何処(どこ)

同声(名声を同じくする)

情最異(心持ちを異にする)

臨川太守(臨川の長官)

謝家郎(南宋の謝霊運のこと)

 

【訓読】郭簡州の柑子を寄せらるるに酬ゆ

霜規 譲らず の色

円質 仍お含む 御史の香り

何れの処か 声を同じくして情最も異なる

臨川の太守 謝家の郎

 

【和訳】郭簡州刺史殿から蜜柑を送られて

霜の降る頃の蜜柑は、黄金に負けぬ輝きを発し、

丸い形からは今も消えぬ御史殿の高潔な香りが漂う。

貴方様と名声を同じくし、心情を異にするお方はといえば、

臨川の太守であった謝霊運殿でございましょう。

 

NHKカルチャーラジオ

漢詩をよむ 2022/10-2023/03

 

【柳宗元】柳州城西北隅種柑樹

 

中唐・柳宗元

柳州城西北隅種柑樹

柳州城(りゅうしゅうじょう)西北隅(せいほくぐう)柑樹(かんじゅ)()

 

手種黄柑二百株 春来新葉遍城隅

方同楚客憐皇樹 不学荊州利木奴

幾歳開花聞噴雪 何人摘実見垂珠

若教坐待成林日 滋味還堪養老夫

 

手種黄柑二百株

()ずから()う 黄柑(こうかん)(ミカン)二百株(にひゃくかぶ)

春来新葉遍城隅

春来(しゅんらい) 新葉(しんよう) 城隅(じょうぐう)(あまね)

方同楚客憐皇樹

(まさ)楚客(そかく)(楚の屈原)皇樹(こうじゅ)(あわ)れむに(おな)じきも

不学荊州利木奴

荊州(けいしゅう)(呉の李衡)木奴(ぼくど)(ミカン)()するを(まな)ばず

幾歳開花聞噴雪

幾歳(いくとし)か (はな)(ひら)き (ゆき)(白花)()くことを()

何人摘実見垂珠

何人(なんびと)か ()()んで (たま)()るるを()

若教坐待成林日

()し ()して(はやし)()()()たしむれば

滋味還堪養老夫

滋味(じみ)は ()老夫(ろうふ)(やしな)うに()えん

 

柳州(作者の左遷された地)

城西北隅(柳州城の北西郊外)

種柑樹(ミカンを植える)

手種(作者自らが植える)

黄柑(ミカン)

春来(春。「来」は接尾辞)

新葉(若葉)

遍城隅(城郭郊外に遍く植えられる)

楚客(楚の屈原を言う)

憐皇樹(ミカンを大事に思う)

不学(~を真似たわけではない)

荊州利木奴(「木奴」はミカンの別名)

幾歳(後年。何年か後)

聞噴雪(ミカンの白い花が開いたと聞く)

何人(誰)

摘実(ミカンを摘み取る)

垂珠(宝石を垂らしたようなミカンの実)

若教(もし、~させさえすれば。使役)

坐待(時の経過するのを焦らず待つ)

成林日(ミカンが生い茂り林となる日)

滋味(滋養になる食物)

還堪(そのうえ~できる)

養老夫(老人を養う)

 

【訓読】柳州城の西北隅に柑樹を種う

手ずから種う 黄柑の二百株

春来 新葉 城隅に遍し

方に楚客の皇樹を憐れむに同じきも

荊州の木奴を利するを学ばず

幾歳か 花を開き 雪を噴くことを聞き

何人か 実を摘んで 珠を垂るるを見る

若し 坐して林と成る日を待たしむれば

滋味は 還た老夫を養うに堪えん

 

【和訳】柳州城の西北郊外に蜜柑を植える

手ずから二百株の蜜柑を植え、

春に若葉が町いっぱいに広がる。

蜜柑を愛した楚の屈原の気持ちと同じであって、

将来の利益を目論んでの呉の李衡の真似ではない。

何年か経ち、雪が舞うように花が咲いたと耳にし、

いずれ誰かが宝石のような実を摘むことになるだろう。

蜜柑の樹が茂り、林となるまで生きることができたならば、

この滋味は、年老いた自分の命を養うことができるだろう。

 

NHKカルチャーラジオ

漢詩をよむ 2022/10-2023/03

 

 

Monday, 28 November 2022

【許渾】贈蕭兵曹先輩

 

中唐・許渾

贈蕭兵曹先輩

(しょう)兵曹(へいそう)先輩(せんぱい)(おく)

 

広陵堤上昔離居 帆転瀟湘万里余

楚客病時無 越郷帰処有鱸魚

生水郭蒹葭響 雨過山城橘柚疎

聞説携琴兼載酒 邑人争識馬相如

 

広陵堤上昔離居

広陵(こうりょう)堤上(ていじょう) (むかし) 離居(りきょ)(離ればなれに住む)

帆転瀟湘万里余

()瀟湘(しょうしょう)(瀟水と湘水)(てん)ず 万里余(ばんりよ)

楚客病時無

楚客(そかく) ()(とき) (ふくちょう)(ふくろう)()

郷帰処有鱸魚

越郷(えつきょう) ()する(ところ) 鱸魚(ろぎょ)(スズキ)()

生水郭蒹葭響

(うしお)水郭(すいかく)(しょう)じて 蒹葭(けんか)(水草)(ひび)

雨過山城橘柚疎

(あめ)山城(さんじょう)()ぎて 橘柚(きつゆう)(ミカンとユズ)()なり

聞説携琴兼載酒

聞説()くならく (こと)(たずさ)えて()ねて(さけ)()すと

邑人争識馬相如

邑人(ゆうじん) (いか)でか馬相如(ばしょうじょ)(司馬相如)()らん

 

贈(詩や物を目の前の人に贈る)

蕭兵曹(「蕭」という姓の兵曹参軍)

広陵(地名。揚州)

堤上(つつみのほとり)

離居(離ればなれに住む)

瀟湘(瀟水と湘水が合流する付近。湖南省)

万里余(一万里余り)

楚客(楚の国を旅する人)

(フクロウ。不吉な鳥と考えられた)

郷(「越」の国)

鱸魚(スズキ)

水郭(水郷)

蒹葭(水草。オギとアシ)

山城(山の中の街)

橘柚疎(ミカンやユズが所々に見える)

聞説(聞くところによると)

携琴(琴を持参して)

載酒(酒を持って)

邑人(村人)

争識(どうして分かるだろうか。反語)

馬相如(前漢の司馬相如)

 

※漢の賈誼(かぎ)は長沙に左遷された折、悪鳥(フクロウ)が部屋に入ったのを見て、自分の運命を悟ったという。

※晋の張翰(ちょうかん)は秋になって故郷の味である鱸魚(スズキ)の膾とジュンサイのスープを思い出し、官を捨てて帰郷した。

 

【訓読】蕭兵曹先輩に贈る

広陵の堤上 昔 離居す

帆は瀟湘に転ず 万里余

楚客 病む時 無し

郷 帰する処 鱸魚有り

潮は水郭に生じて 蒹葭響き

雨は山城を過ぎて 橘柚疎なり

聞説くならく 琴を携えて兼ねて酒を載すと

邑人 争でか馬相如を識らん

 

【和訳】兵曹参軍の蕭先輩に贈る

広陵の堤では離ればなれに暮らし、

はるか万里の彼方、舟は瀟湘あたりをさまよう。

楚の国を行く旅人は病を得たが、不吉な鳥のフクロウの訪れもなく、

帰るべき故郷には、美味な鱸魚が待っている。

水郷に水が増し、潮水が起こり、水草の蒹葭が音を立て、

雨が山の街を通り過ぎると、橘と柚が所々に生っているのが分かる。

聞くところによると、近所の人が琴や酒を携えて来るそうだが、

村人には、司馬相如に並ぶ貴方の人物が理解できぬとも仕方あるまい。

 

NHKカルチャーラジオ

漢詩をよむ 2022/10-2023/03