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Wednesday, 14 December 2022

【杜牧】斉安郡中偶題二首 其二

 

晩唐・杜牧

斉安郡中偶題二首 其二

斉安(せいあん)郡中(ぐんちゅう)にて(たま)たま(だい)二首(にしゅ) ()()

 

秋声無不攪離心 夢沢蒹葭楚雨深

自滴階前大梧葉 干君何事動哀吟

 

秋声無不攪離心

秋声(しゅうせい) 離心(りしん)(みだ)さざるは()

夢沢蒹葭楚雨深

夢沢(ぼうたく)蒹葭(けんか)に 楚雨(そう)(ふか)

自滴階前大梧葉

(おの)ずから(したた)る 階前(かいぜん)大梧葉(だいごよう)

干君何事動哀吟

(きみ)何事(なにごと)(かか)わりて 哀吟(あいぎん)(うご)かせる

 

斉安郡中(黄州の官舎)

偶題(思いつくままに詩歌を作る)

秋声(秋季における自然の音)

攪(乱す)

離心(旅愁)

夢沢(雲夢の沢、うんぼうのたく)

蒹葭(水草のオギとアシ)

楚雨(楚の国に降る雨)

階前(階段付近)

大梧葉(大きなアオギリの木)

干君何事(君とどんな関係がある)

哀吟(悲しい歌声。ここでは雨の音)

 

【訓読】斉安郡中にて偶たま題す二首 其の二

秋声 離心を攪さざるは無く

夢沢の蒹葭に 楚雨深し

自ずから滴る 階前の大梧葉

君の何事に干わりて 哀吟を動かせる

 

【和訳】斉安郡の官舎にて思いつくままに二首 その二

秋季の音は、どれも望郷の念をかき立てるものばかり、

雲夢(うんぼう)の沢(たく)のオギとアシに、楚の国の雨が冷たく降り続く。

階段付近のアオギリの大木の葉に雨が音を立てて滴り、

雨よ、君とどんな関わりがあって、悲しい歌声を響かせるのか。

 

NHKカルチャーラジオ

漢詩をよむ 2022/10-2023/03

 

Friday, 9 December 2022

【杜甫】蒹葭

 

盛唐・杜甫

蒹葭

蒹葭(けんか)

 

摧折不自守 秋風吹若何

暫時花戴雪 幾処葉沈波

体弱春風早 叢長夜露多

江湖後揺落 亦恐

 

摧折不自守

摧折(さいせつ)して(くだけ折れて) (みずか)(まも)らず

秋風吹若何

秋風(しゅうふう) ()きて若何(いかん)せん

暫時花戴雪

暫時(ざんじ) (はな)(ゆき)(いただ)

幾処葉沈波

幾処(いくところ)か ()(なみ)(しず)

体弱春風早

(からだ)(よわ)く 春風(しゅんぷう)(はや)

叢長夜露多

(そう)(なが)く 夜露(やろ)(おお)

江湖後揺落

江湖(こうこ) (おく)揺落(ようらく)するも

亦恐

()(とし)(さた)たる(時節を失う)(おそ)

 

蒹葭(水草。オギとアシ)

摧折(くだけ折れる)

自守(自分自身を維持する)

若何(どうしようもできない。反語)

暫時(しばらくの間)

花戴雪(白い花をのせる。花を雪に見立てる)

幾処(何か処)

葉沈波(葉が波間に沈む)

体弱(水草は脆弱である)

春風早(春風が例年になく早く吹き、発芽を促す)

叢長(水草が群生する)

夜露多(夜露が多く宿る)

江湖(江南を指す)

揺落(枯れて揺れながら落ちる)

(歳末。転じて人生の晩生)

(時期を失う。志を得ないさま)

 

※アシは「蘆(ろ)」とも表記され、穂のついたものは「葦(ろ)」とも呼ぶ。

 

【訓読】蒹葭

摧折して 自ら守らず

秋風 吹きて若何せん

暫時 花は雪を戴き

幾処か 葉は波に沈む

体弱く 春風早く

叢長く 夜露多し

江湖 後れて揺落するも

亦たに蹉たるを恐る

 

【和訳】水草の荻(おぎ)と蘆(あし)

水草はくだかれ折られて、自身を守ることができず、

秋風に吹かれると、どうしようもできない。

しばらく水草の花が雪を頂くように白く咲いても、

幾つかの所で水草の葉が波に沈んでいる。

水草はもろく、春風がいつになく早く吹き芽を出すも、

水草は群生して、秋の夜長に露が降りる。

ここ江南では北よりも遅く落葉するが、

人生の晩年になすすべ無く終わるのを心配する。

 

NHKカルチャーラジオ

漢詩をよむ 2022/10-2023/03

 

Thursday, 8 December 2022

【戴叔倫】梧桐

 

中唐・戴叔倫

梧桐

梧桐(ごどう)

 

亭亭南軒外 貞幹修且直

広葉結青陰 繁花連素色

天資韶雅性 不愧知音識

 

亭亭南軒外

亭亭(ていてい)たる(高く聳える) 南軒(なんけん)(そと)

貞幹修且直

貞幹(ていかん)(まっすぐな幹) (なが)()(ちょく)なり

広葉結青陰

広葉(こうよう) 青陰(せいいん)(むす)

繁花連素色

繁花(はんか) 素色(そしょく)(白色)(つら)

天資韶雅性

天資(てんし)(天賦の才) 雅性(がせい)()

不愧知音識

知音(ちいん)(※参照)()るを()ぢず

 

梧桐(アオギリ)

亭亭(高く聳えるさま)

南軒(南側の軒)

貞幹(まっすぐな幹)

広葉(幅広い葉)

青陰(緑の木陰)

繁花(満開の花)

素色(白色)

天資(生まれつきの才)

韶(継承する)

雅性(雅楽を奏でる性質)

知音(心の底まで理解し合った友)

 

※「知音」とは以下の典故による。

春秋時代、鍾子期(しょうしき)は伯牙(はくが)の弾く琴の音色で、伯牙の心境を理解した。鍾子期が死ぬと、白牙はもはや我が琴の音を知る者はいないと琴の弦を切って二度と演奏しなかった。

 

【訓読】梧桐

亭亭たる 南軒の外

貞幹 修く且つ直なり

広葉 青陰を結び

繁花 素色を連ぬ

天資 雅性を韶ぎ

知音の識るを愧ぢず

 

【和訳】梧桐

南の窓辺にすっくと聳え、

幹は長く、かつまっすぐに伸びる。

大きな葉は、緑の木陰を広げ、

花は満開で白色を連ねる。

持って生まれた性質は雅楽を奏でる伝統を継ぎ、

琴の音を聞き分けた「知音」に恥じることもない。

 

NHKカルチャーラジオ

漢詩をよむ 2022/10-2023/03

 

 

Wednesday, 7 December 2022

【天宝宮人】題洛苑梧葉上

 

天宝宮人

題洛苑梧葉上

洛苑(らくえん)梧葉(ごよう)(うえ)(だい)

 

旧寵悲秋扇 新恩寄早春

聊題一片葉 将寄接流人

 

旧寵悲秋扇

旧寵(きゅうちょう)(昔の寵愛) 秋扇(しゅうせん)(不要となった扇)(かな)しみ

新恩寄早春

新恩(しんおん)(新たな愛情) 早春(そうしゅん)(若い女性)()

聊題一片葉

(いささ)(だい)す 一片(いっぺん)()

将寄接流人

(まさ)(なが)れに(せっ)する(ひと)()せんとす

 

天宝宮人(不詳。洛陽城中の宮女)

題(詩を作る)

洛苑(洛陽城の宮殿にある庭園)

梧葉上(アオギリの葉上)

旧寵(昔の寵愛)

秋扇(不要となった扇。顧みられないもの)

新恩(新たな愛情)

寄早春(若い女性にあたえられる)

聊題(試みに詩を作る)

一片葉(ひとひらのアオギリの葉)

将寄(送ろうとする)

接流人(御溝の流れ沿いにいる人。葉を拾い得る人)

 

※アオギリの大きな葉は紙の代用とされた。

※城外との交通が自由でない宮女にとって、水に流すアオギリの葉は、思いを託す唯一の手段であった。

 

【訓読】洛苑の梧葉の上に題す

旧寵 秋扇を悲しみ

新恩 早春に寄す

聊か題す 一片の葉

将に流れに接する人に寄せんとす

 

【和訳】洛陽の御苑にて梧桐の葉に詩を書く

昔の寵愛は、まるで秋の扇のようであり、

新たな寵愛は、早春のめぐり合わせのようだ。

試みにアオギリの葉に思いを託す詩を書きとめて、

御溝(ぎょこう)に接するお方に届けたく思う。

 

NHKカルチャーラジオ

漢詩をよむ 2022/10-2023/03

 

Tuesday, 6 December 2022

【岑参】秋夕読書幽興献兵部李侍郎

 

盛唐・岑参

秋夕読書幽興献兵部李侍郎

秋夕(しゅうせき)読書(どくしょ) 幽興(ゆうきょう)ありて兵部(へいぶ)李侍郎(りじろう)(けん)

 

四十強 自憐白始

雨滋苔階緑 梧桐覆井黄

驚蝉也解求高樹 旅雁還応厭後

覧巻試穿隣舎壁 明灯何惜借

 

四十

年紀(ねんき) (さた)(つまずき)たり 四十強(しじゅうきょう)

自憐白始

(みずか)(あわ)れむ (かしら)(しろ)くして(はじ)めて(ろう)(官職)()

雨滋苔階緑

(あめ)苔蘚(たいせん)(うるお)し (きざはし)(おか)して(みどり)なり

梧桐覆井黄

(あき)梧桐(ごどう)(アオギリ)(はら)い ()(おお)いて()なり

驚蝉也解求高樹

驚蝉(きょうぜん) ()()高樹(こうじゅ)(もと)

旅雁還応厭後

旅雁(りょがん) ()(まさ)後行(こうこう)(遅れ)(いと)うべし

覧巻試穿隣舎

(かん)()て (こころ)みに穿(うが)つ 隣舎(りんしゃ)(かべ)

明灯何惜借

明灯(めいとう) (なん)()しまん 余光(よこう)()りるを

 

秋夕(秋の夕べ)

幽興(奥ゆかしい趣)

献(献呈する)

兵部李侍郎(李姓の兵部侍郎)

紀(年齢)

(つまずき。志を得ない)

四十強(四十過ぎ)

自憐(自ら同情する)

白(白髪頭)

郎(やっと「郎」の職位に就く)

蘚(こけ)

颯(払う。落とす)

梧桐(アオギリ)

覆井黄(落葉し井戸を覆う)

驚蝉(驚いて鳴くセミ)

高樹(高木)

旅雁(遠くに飛ぶガン)

行(遅れていく)

隣舎壁(隣家の壁)

明灯(明るい灯火)

何惜(惜しまない。反語)

光(余分にある光)

 

【訓読】秋夕の読書 幽興ありて兵部李侍郎に献ず

紀 たり 四十強

自ら憐れむ 白くして始めて郎と為る

雨は苔蘚を滋し 階を侵して緑なり

秋は梧桐を颯い 井を覆いて黄なり

驚蝉 也た解く高樹を求め

旅雁 還た応に後行を厭うべし

巻を覧て 試みに穿つ 隣舎の

明灯 何ぞ惜しまん 光を借りるを

 

【和訳】秋の夕べの読書、感興が湧き兵部李侍郎に献呈する

つまずきがちな半生、はや四十の年齢になっ、

白髪頭になってやっと郎官を得たことに自分でも驚く。

雨は庭の苔を潤し、忍び込んで階段を緑に染め、

秋気は梧桐を落とし、井戸を黄色に覆い隠す。

驚いて鳴く蝉はさらに高い木に飛び移り、

旅にある雁はきっと遅れをとるのを嫌うはず。

書を読み進めて、隣の家の壁に穴を開け、

遠慮なく読書に必要な明るい灯火を借りうけよう。

 

NHKカルチャーラジオ

漢詩をよむ 2022/10-2023/03