盛唐・岑参
秋夕読書幽興献兵部李侍郎
秋夕の読書 幽興ありて兵部李侍郎に献ず
年紀蹉跎四十強 自憐頭白始為郎
雨滋苔蘚侵階緑 秋颯梧桐覆井黄
驚蝉也解求高樹 旅雁還応厭後行
覧巻試穿隣舎壁 明灯何惜借余光
年紀蹉跎四十強
年紀 蹉跎(つまずき)たり 四十強
自憐頭白始為郎
自ら憐れむ 頭白くして始めて郎(官職)と為る
雨滋苔蘚侵階緑
雨は苔蘚を滋し 階を侵して緑なり
秋颯梧桐覆井黄
秋は梧桐(アオギリ)を颯い 井を覆いて黄なり
驚蝉也解求高樹
驚蝉 也た解く高樹を求め
旅雁還応厭後行
旅雁 還た応に後行(遅れ)を厭うべし
覧巻試穿隣舎壁
巻を覧て 試みに穿つ 隣舎の壁
明灯何惜借余光
明灯 何ぞ惜しまん 余光を借りるを
秋夕(秋の夕べ)
幽興(奥ゆかしい趣)
献(献呈する)
兵部李侍郎(李姓の兵部侍郎)
年紀(年齢)
蹉跎(つまずき。志を得ない)
四十強(四十過ぎ)
自憐(自ら同情する)
頭白(白髪頭)
始為郎(やっと「郎」の職位に就く)
苔蘚(こけ)
颯(払う。落とす)
梧桐(アオギリ)
覆井黄(落葉し井戸を覆う)
驚蝉(驚いて鳴くセミ)
高樹(高木)
旅雁(遠くに飛ぶガン)
後行(遅れていく)
隣舎壁(隣家の壁)
明灯(明るい灯火)
何惜(惜しまない。反語)
余光(余分にある光)
【訓読】秋夕の読書 幽興ありて兵部李侍郎に献ず
年紀 蹉跎たり 四十強
自ら憐れむ 頭白くして始めて郎と為る
雨は苔蘚を滋し 階を侵して緑なり
秋は梧桐を颯い 井を覆いて黄なり
驚蝉 也た解く高樹を求め
旅雁 還た応に後行を厭うべし
巻を覧て 試みに穿つ 隣舎の壁
明灯 何ぞ惜しまん 余光を借りるを
【和訳】秋の夕べの読書、感興が湧き兵部李侍郎に献呈する
つまずきがちな半生、はや四十の年齢になっ、
白髪頭になってやっと郎官を得たことに自分でも驚く。
雨は庭の苔を潤し、忍び込んで階段を緑に染め、
秋気は梧桐を落とし、井戸を黄色に覆い隠す。
驚いて鳴く蝉はさらに高い木に飛び移り、
旅にある雁はきっと遅れをとるのを嫌うはず。
書を読み進めて、隣の家の壁に穴を開け、
遠慮なく読書に必要な明るい灯火を借りうけよう。
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漢詩をよむ 2022/10-2023/03
